翌日の出来事。④

世の中でいわれる流れと同じく

飲食店も2月はあまり良くないとされますが

そな田は昨秋に開店したてだったこともあり

業績の冷え込みはそれほど強くなかったように記憶しています。

それでも雪の降るその日曜日、

――当時は月曜定休でした――に予約はなく、

口あけも遅いと予想できそうな天気でしたから

開店前に用意された食事を頂きながら

ぼんやりと「今日は暇かなあ」などと考えていると

お店の電話が鳴りました。

 

同業の方だとよりお分かりになると思いますが

こういう予約の無い日の電話は嬉しいものです。

売上げも大切ですが、それが予約以外の、

何らかのお店の問い合わせであったとしても

いつもどなたかをお待ちしている私たちにとって、

店を気にかけてもらっている、そのことだけでもありがたい。

 

電話口の声は「これから行きます」という男性からのもので

予約名は聞きなれないユニークなものでした。

いったいそのお名前はどういった漢字なんだろう、

どんな雰囲気の方なんだろう。

 

私たちはいつもお電話口から

声色から話し方から、内容までを聞いて

様々な想像をめぐらせます。

当たり前ですが詮索したいわけではなく、

ゆっくりお過ごしいただきたいから少しでも情報を集めようとします。

どうやってうちの店を知り、なぜえらんで下さったのか。

何を食べたいのか、嫌いなこと、苦手なもの――。

その短い会話から

 

・お料理はお任せいただけること、

・おふたりでくること、

・苦手なものはないこと。

・はじめてこられること。

 

以上のことがわかりました。

あまり細かくお聞きするのもいんぎん無礼、

ほどほどを心がけながらも受話器を置いたところから

現在の食材や飲み物の流れをあらためて頭にめぐらせ、

今日の気分、お昼に何を召し上がったのか――。

とにかくいろいろ考えたい。

今できるすべてでお迎えしたい。

 

もう、これはおせっかいと言われる向きもありましょうが、

習性のようなものです。

そうして予定より数分早くご来店された

ユニークな名前のお客さんは意外にも、店の主でした。

 

――つづく。