翌日の出来事。③

その建築家をKさんとします。

僕は彼の横に座りたぶんウイスキーをお願いしたはずです。

Kさんはグラッパを飲んでいた気がします。

その記憶が細かいのは僕が今でもグラッパを苦手なせいなのと、

この店に通い始めて数カ月、

完全な冬がやってきて僕にとってのウイスキーは、

身体を暖めるための飲みなれたものになっていたからでしょう。

途中で主の方も聞き手ながら

会話に入ってきてくださいました。

僕たちはなんとなく世間話のように

開店から直近のそな田についての話をし、

なんとなく閉店時間までいてなんとなく解散しました。

疲れのやわらぐ良い夜でした。

 

数日後、そな田に来たKさんから

 

秋頃に○○さん(僕)が、あの店にふらっと入ってきたとき、

マスターはずいぶん雰囲気のある方だなと思って○○さんに

興味が湧いたと話していましたよ。

 

そう聞かされました。

主の、僕への印象にずいぶん驚いたことをおぼえています。

そしてすぐに嬉しいと感じたことをおぼえています。

個性にすっかり自信をなくした新米店主が

ベテラン店主に正反対の評価をいただくのは

僕が単純であることを多分に考慮したとしても

自信を取り戻すには十分なことばでした。むしろ出来過ぎです。

 

そこから手始めにまず僕は平静を取り戻すと決めてみると

自分に不足しているものがよく理解ができました。

自分自身が苦手な時期があっても認めてくれるひとがいる以上

自分のことにあまり囚われないで周りにいる方たちの立場を想像すること。

これは何度間違っても良い、正解が出なくとも良い、

何回でも失敗していい。

そしてベテランぶらないこと、

恥をかくこと、人に習うこと、

御礼を言うこと、ひとりで背負いこまないこと。

これくらいで書き止めておきます。

 

そして札幌は春を迎える直前の最厳寒期、

2月の下旬を迎えていきます。

 

――つづく。