春の宵
好きな季節の移ろいのひとつが――春の宵ですか。
先週末に、東京から届いた桃の花を眺めていますと
15年ほど前、新宿に近い下町で暮らしていた頃を思い出しました。
札幌とは違い、こちらの春には優しい陽ざしの中で路に雪がなく
そこここの庭先から桃や桜が咲きこぼれている、
春はそんな暖かな季節なんだと知りました。
当時、二十代なかばでそんな陽気にあてられて
――急に、ちょっとした季節の愉しみ方のひとつを知ったような顔でもして――
昼下がりからの散策帰りに確か、初めてうなぎを肴にお酒をいただいた筈です。
昨夜、最近あたらしい仲間としてうちへ入ってくれた女性が
とうふと海苔と山芋を丁寧に仕事して山椒を添えた
うなぎそっくりのあそび心ある料理を作ってくれたら、
そんなちょっと気恥ずかしいことも一緒に思い出していました。
外灯がわりの花見ちょうちんが夜風に揺れる中、
宵闇の色が黒ではなく深く聡明な蒼だと知った春の思い出が
この季節の宵を好きになったきっかけかもしれません。