本当にお出ししたいものは、
一風変わったもの。ということではありません。
旬を感じてもらえるもの。というだけでもありません。
奇をてらうことは決してしません。
そして、ずいぶんと長いあいだ、
毎日毎日寝ても覚めても料理のことだけを考えてきた方が
「真面目な正統」というのも素敵です。
ただ私たちはいつも少しだけ、こうも思って話し合うのです。
「経験をつんだ腕前を、ちょっと贅沢にムダづかいしましょう」と。
ですから、そういう人がキッシュを焼くと
タラバガニが混ざってタルトのキッシュに、栗バターを添えます。
ある夜のコースのお食事には
「真鯛の昆布〆のフレンチトースト」
茗荷の甘酢漬がサンドウィッチに添えてあるのを見た
お客さんのお顔がほころぶ。
――それを見て、伝えあって、
緊張がほぐれた私たちもすこし心が安らぎます。
「よかった、伝わった」と。
誤解を恐れずお伝えするのであれば
本当にお出ししたいものは、
「私たちが真剣にふざけたもの」だったりするのです。