翌日の出来事。終

主(あるじ)はそな田に来られた翌日の夕方,

心臓の御病気で急逝されたと聞いています。

しかし僕がそのことを知ったのは

すっかり路面の雪も解け4月になったというのに

よこなぐりにみぞれ雪の吹雪く嵐の夜でした。

 

もしも今、これをお読みになっている方が

主をご存知で、詳細を知っていらして

僕の書き記したことが間違っていたらごめんなさい。

最初に謝っておきます。

 

僕がその事実を知る前に、主の店には何度か足を運びましたが

扉にはいつも鍵が掛かっていました。

脳裏には病気や入院という言葉すら浮かばず

今考えてもどうしてなのか、「また休みの日に来てしまったな」

そんな考えしか浮かびませんでした。

他のこと――もちろん最悪のことなど――みじんも思いつかなかった。

夕べ会った元気な人が翌日死ぬなんて知らなかった。

いえ、正確に言えば知識としては持っていましたが、

そのルーレットが自分に回ってくるとは思ってもみなかった。

 

しかし僕がこの長文でお伝えしたいのは

主と僕の思い出ではありませんし

僕「こんなふうに成長したんだぜ」という自慢でも、

おこがましく命の大切さを説こうというものでもありません。

 

ある方にご用意したお料理が、その方の最後の夕食でした。

 

その事実だけです。

そこにひとつのご連絡をいただけていたことで

そのとき出来うる準備はすべて行い、お世話した。

本心から喜んでいただけたかどうか――。

それはこちらのものさしではありません。

それは私たちの仕事に際し、皆さんだけが使うことのできるものさしです。

そして――これは書くのもいやになるほどあたりまえですが――

私たちが満足できたかどうかの話しではなく、

まかされた仕事にやり残しが有ったか無かったか、という話しです。

 

翌日の出来事がわからない以上

今日の仕事を残さずすべてやる。

 

出すぎたことを申し上げますと私たちの仕事とは、

皆さんに直接的にお世話させていただく性質のため

もし、少しでも大切にされたいお食事のご用があるならば

「行くよ」という合図があるとよりありがたいのです。

予約とは、準備しておいて。店に対するGOサインです。

席のみのご予約でも席をお取りして「準備完了」とはなりません。

ご事情やご希望を念頭に考えながら来店されてお帰りになられるまで

その準備は継続されます。

 

もちろんふらりと二軒目に立ち寄りたい時はお好きにいらしてください。

僕が、主の店に対してそうであったように。

そな田はそういうお店です。

今までもそうでしたし、これからもそうだと思います。

10月で丸5年を迎え、6年目に入る御挨拶がてら

文章をおこしてみます、長々とお読みいただきありがとうございました。

 

最後に、もしも皆さまのなかに僕があの日以来飲みそびれている

サシカイアのグラッパをお飲みになられたことがある方がいらしたら

ぜひともご感想を教えてください。

その際のご予約名がユニークな偽名だと、

お待ちしているのがより楽しいものになるかもしれません。

 

 

そな田

小野寺 弘祐